退職を見据える際、リスク性資産の削減は賢明な戦略か?【前編】

INTERVIEW

「退職後はリスク性資産の割合を引き下げましょう」という考え方が一般的です。しかし、政府が目指す「資産運用立国」の実現という大きな流れの中で、2024年から導入される新NISA制度や進行するインフレといった背景を考慮すると、退職を理由にリスク性資産を削減することが本当に適切なのか、改めて検討してみる必要があるのではないでしょうか。
リスク性資産の削減のタイミングについて、フィンウェル研究所・代表の野尻哲史さんにお話を伺いました。

インタビューした専門家

合同会社フィンウェル研究所 代表野尻 哲史
のじり さとし

01

退職をするタイミングでリスク性資産を減らすべきか?

―実際にお客様と面談をする中で、退職が近くなった時にこのままのポートフォリオでいいのかというご質問を受ける機会が多いのですが、野尻さんはどのようにお考えでしょうか?

『退職をするからリスク性資産を減らす』というふうに考えるのは正しくないと思っています。リスク性資産を減らすタイミングの大きな要素としては、持っているポートフォリオを売却する時期が近づいているかどうかという判断だと思うんですね。
例えば、退職に伴って確定拠出年金を売却する、もしくは一時払いで資金を現金化するということを自分の中で計画されているのであれば、そこに向けてリスクをどんどん下げていくということは必要だと思います。

ただ、実際に私はすでに退職しており64歳になりますが、まだリスク性資産を売却する必要は全くないと思っています。もちろん、年齢が上がるにしたがってリスク性資産の割合をだんだんと下げていくのは確かですけど、有価証券投資から完全撤退をするタイミングに向けて下げていくのであって、これは退職のタイミングではない。この「退職」という言葉が実は正確に共有されていないのではないかと思っています。
もちろん、退職=全額売却するという風に考えているのであれば、ポートフォリオは変更すべきだと思いますが、そうでなければ必要はないと思います。

―まずはお客さまと「退職」についてのお考えを確認する必要がありますね。

そうですね。「退職をどのように設定されているか」がポイントなります。
定年退職や継続雇用契約が切れて会社をやめるという設定ではなくて、その後も運用を続けると考え、それら全部を見計らった上で、少しずつ年齢に合わせてリスクを減らして行く。こういう風に考えてください。退職をするかしないかはあまり関係ないです。
ただし、退職した時点で全額を売却しなければならないような制度の中で運用しているものについては、リスク性資産の比率をどうするかというのは売却のタイミングが見えてきてから、もしくは見える間近で考えていただければと思います。

―なるほど。
退職がリスク性資産を減らすタイミングではなくて、売却が見えてきたタイミングで、そこに合わせてリスク性資産の割合を少しずつ減らして行くというような形ですね。

02

リスク性資産を減らすタイミングとは

―たとえば年齢が高くなるにつれて運用ポートフォリオを見直すことだったり、将来売買の判断がつかなくなることを想定して、その年齢に向けてリスク性資産を減らしていくことも同じ考えでよろしいですか?

そうですね。本当は退職という言葉の代わりに「有価証券を売却するタイミングに向けてリスクを減らしていく」という発想だと思います。
「退職」=「有価証券を売却」という風に考えられる方はまだまだ多いですね。現役世代の方々は、退職に向けて資産運用するという風に刷り込まれてしまっている方も多いので、「退職=有価証券比率を引き下げることだ」、もしくは「有価証券をゼロにすることだ」という風に思われてしまっている。
そうではないんだということを伝えていきたいですね。

―退職が近くなったタイミングで○○ショックのようなことが起こるかもしれない、収入も現役の頃よりも減るため不安だと思われる方も多いのではないかと思いますが、この考え方をしっかりと理解する必要がありますね。

(出所)合同会社フィンウェル研究所

03

リスク性資産比率の引き下げ方法のアイデア

もちろん年齢が上がるにつれてリスク性資産比率は下げていくべきですが、定年や定年後継続雇用が切れて仕事をやめるタイミングに向けてリスク性資産を下げていく必要はないです。
例えば、「80歳に向けて少しずつリスク性資産の比率を下げていく」、これが1つのアイディアです。その場合、リスク性資産比率っていうと2種類あって、1つは、ポートフォリオの中に債券の比率を上げて株式の比率を下げることでリスク性資産の比率を下げるというよく言われるパターンがあるのですが、一般の方はポートフォリオの中に債券を何パーセント入れて、リスクを何パーセントにするためにどう動かして行くかっていうことをやる必要はあまりないのではないかと思います。代わりに投資信託とキャッシュもしくは預金、この比率のバランスを考えていくと考えた方が良いと思います。
年齢が高くなるほどリスク性資産比率を引き下げていくという考え方は、例えばアメリカでよく言われていましたが「100―年齢=株式比率(リスク性資産比率)」と考えてみてはどうでしょう。ここに退職というのは関係ないですよね。

「100―年齢」というのが必ずしも正しい数字だと思っているわけではないんですが、年齢が上がるにつれてリスク性資産比率を下げていくっていうのは正しい考え方だと思っています。
その中で、債券の比率を上げたり、株式の比率を下げるっていうのは、かなり資金額の大きいポートフォリオを持っていらっしゃる方であればいいと思いますけど、そうでなければ預金の比率と有価証券もしくは投資信託の比率のこのバランスだけで考えればいいと思っています。

―ポートフォリオを組み替えてバランスをとるというよりも、現金化してリスクを段々と減らしていくということですね。このリスクコントロールを自分自身で考えて実行していくというのは難しいと感じる方は多いですよね。

04

まとめ

  • 『退職をするからリスク性資産を減らす』は正しくない
  • 有価証券を売却するタイミングに向けてリスクを減らしていく
  • 預金と有価証券(投資信託)のバランスで考える方法も
資産運用は長期目線で考えることが大切です。
自分に合った資産運用について相談したい、相談しながらライフプランをふまえた資産運用を検討したい方は、ぜひFDAlcoまでご相談ください。

野尻哲史(合同会社フィンウェル研究所・代表)

国内外証券会社調査部を経て2006年から外資系運用会社で投資啓発活動に従事。2019年5月に合同会社フィンウェル研究所を設立し代表に。退職後のお金との向き合い方を資産運用だけでなく勤労・移住など多方面から分析する。
日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会等の会員の他、2019年より金融審議会市場ワーキンググループ、2022年9月より同顧客本位タスクフォースの委員、23年10月から同資産運用タスクフォースの委員も務める。
「60代からの資産「使い切り」法」(日本経済新聞出版)、「IFAとは何者か」(金融財政事情研究会)など著書多数。

株式会社FDAlco 免許・許認可:金融商品取引業(投資助言・代理業)北陸財務局長(金商)第26号/加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会